読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ただ文章を打ってたいんだ。

気持ちただ漏らし備忘録

GQ JAPAN狂想曲

工事現場独特の地響きをBGMにiPhoneから電話をかける。
今日はとある雑誌の発売日だ。

行きつけの書店の開店時刻10時に合わせて、仕事中であるにも関わらず離席した。
……にも関わらず、繋がらない。
電話をすると決めていたから、電話帳に登録してすぐにかけられるようにした。
……にも関わらず、繋がらない。

工事現場で電波を遮られているのか、どががががふぉーんふぉーんふぃーんふぃーん、繋がっているのかごごごごごごどどどっどっどっ繋がっていないのかかかかかかっがっがっがっ。

10秒程棒立ちしていると「ツー」という寝惚けた反応がようやっと返ってきた。

こうしている間に、一人また一人とどどどどっがっがっごっごっ買ってしまうのではふぉーんぶおおおおおおおおおおないか?不安に駆られる。
気に入った動画をリピート再生するようにどっどっどっごっごっごっごっ同じキーを同じ調子で押す。
騒音の向こうに「ぷるるるるるるぷるるるるるる」と甲高い音が聞こえた。
助かった。

「あのぅ、雑誌の取り置きをお願いします」

毎度ありがとうございますの声すらふぃーんふぃーんがつーんがつーんどどどどどどど待つことなくごっごっごっごっ山田ぁそれ邪魔だぁどーんどーんがつーんがつーんはぁーいがっがっがっごっごっごっごっどどどどどどどふぁあああああああん切り出した。

今号は告知を見て即、瞬殺の予感を覚えた。
数年前、絵柄違いの同じ付録がついた際わざわざAmazonでプレミア価格のついた中古品を買い求めた。
気付いた時には書店から消えていた。プレミア価格で買うしかなかった。もっと早く動けば、と後悔した記憶は腐らない。
『はい、お承りします』
涼しそうな声の女性がか細く聞こえる。
iPhone、お前は電話機として単体では駄目だ。イヤホンマイクがないと声の聞き取りづらさが当社比1.5倍、向こうに自分の声が聞こえている気がしないのは当社比5倍。

『どちらのお取り置きですか?』
先程よりしっかり聞こえるようになった。
工事現場、空気を読んでくれてありがとう。
「あの!」
腹に力を込めた。

ふぉーんふぉーんふぉーんふぉーん。

「今日、発売のぉッ!」
まるで鼻水と涙の境目がなくなる程に猛然とトラックの前へ飛び出す武田鉄矢のように言った。

GQ JAPANですね』

……あれ?

『一部のお取り置きでよろしいでしょうか?』
わかりきったかのように淡々とした声。淡々と処理され、無事に取り置いてもらった。

取り置いてもらった安心感から、夜まで悠々と仕事に励めた。取りに行くのは明日でも構わない。
取り置いてあるから逃げも隠れも転売もプレミア価格もない。
堂々たる定価購入だ。

冷やかしにAmazonで価格を確認する。

発売初日にして既に『新刊&中古(61) ¥1,073より』と表示された。子細を眺めると、既に『¥2,600+¥257』という恐ろしい価格をつけている人も。税込価格¥600が定価なのだから、実に4倍以上の価格をつけている。

これは酷い。
それ以上に定価で取り置いている自分の計画性に自惚れた。最も、ネット価格が暴力的なだけで、町の書店には平積みされているかも知れない。どうでも一向に構わない。少なくとも、自分は定価で買える。

寝る直前まで冷やかすだけ冷やかし、ほくそ笑みながら布団へ潜った。
思うに、あの電話口の女性はそういう人しか今日は相手にしなかったのかも知れない。
しないとわかっていたからこその対応だったと思うと……。付録のスタバカードミニ、恐ろしい子

……って、公開ボタンを押したら発売日の翌日になっていたオチ。

広告を非表示にする